奮戦したフイ高地の井置支隊 ~ ノモンハン事件
フイ高地の悲劇。
昭和14年(1939年)5月に勃発した満州とモンゴルの国境紛争「ノモンハン事件」は日本軍の惨敗と言われていましたが、実はソ連軍は大打撃を受けており、有利な形で停戦に持ち込むため、8月20日よりソ・蒙軍は戦車、航空機、日本軍の3倍ともいう大兵力を結集し大攻勢に出ます。
ノモンハンの北方のフイ高地は井置栄一中佐が率いる部隊が守備していました。ここにソ連軍が猛攻をかけてきます。ここを突破して日本軍の後方に回り込み、日本軍を包囲しようという作戦です。
20日、ソ連戦車40~50輌が来襲。砲兵の射撃と火炎瓶で十数台を擱座させます。夜には火炎戦車を含めて襲撃してきますが、反撃し戦車2台と火炎戦車を全部破壊しました。
ソ連側資料
「第七装甲車両団と第601狙撃連隊は強固な築城陣地フイ高地で、阻止され、行進しつつ占領することが出来なくなった。フイ高地の日本兵はソ連軍の攻撃を撃退し、この戦闘で狙撃連隊長のスダク少佐は英雄的戦死をした」
21日には井置支隊の陣地に一分間に120発の砲弾が降り注ぎ、散兵壕が崩壊します。そして戦車群と狙撃兵が陣地に入ろうとしますが、連隊砲で撃退。再び戦車と狙撃兵が来襲し、手榴弾戦になるも撃退。22日は敵砲弾が1秒間に3発も降り注ぎ、野砲が全滅してしまいました。
ソ連は22日になって精鋭の第212空挺旅団を投入。このソ連兵は他の兵のように白兵戦でひるむことなく、日本軍兵士が死守する岩の裂け目や塹壕陣地に肉薄し、手榴弾を投げつけ、火炎放射器による支援を受けながら飛び込んできました。
水の補給がままならない井置支隊は渇きに苦しみながらもソ連空挺部隊の攻撃を何度も撃退しました。この井置支隊の奮戦ぶりをみたソ連側は井置中佐を英雄視し、やっとのことで井置支隊の抵抗を破ったありさまをソ連のシーシキンという人が次のように述べています。
「・・・フイ高地の戦闘は続行していた。日本軍守備隊は、全面を封鎖されながらもすべての攻撃を撃退しつづけた。・・・8月23日の終わりになってやっと、第212落下傘旅団の追加支援を受けた北面軍諸部隊によって、敵の抵抗を破った。日本兵は手榴弾と銃剣を持って、文字通りすべての壕から叩き出さねばならなかった。一人として捕虜にならなかった。戦闘後、塹壕と掩蔽(えんぺい)部から、600以上の日本軍将兵の死体ひきずり出された」
600以上の日本兵というのは誇張で、25日までの井置支隊の戦死・行方不明203名です。井置支隊の269名は補給が断たれ弾薬も水も食糧もない状態になっていきました。通信機も破壊され、連絡もとれず、23日夜にはフイ高地うちの西面一帯が制圧され全滅を覚悟。24日井置支隊長は「いつの日にか戦うことを期して生き残るため、残存兵力の消耗を防ぐ」と決意し、25日未明、ソ連軍が立ち去った後、高地を脱出して一人の犠牲者もださず本隊に到着しました。この頃の日本軍は戦力がなくなったら突撃し、白兵戦で活路を見出したり、隊長は責任を感じ自決したりしていましたが、井置支隊長は自決を図って周囲に止められ、自決できませんでした。
井置支隊長の判断は合理的ではありましたが、これは命令によらない無断撤退として罪を問われ、停戦協定後の9月16日に井置中佐はピストル自殺してしまいます。これは小松原師団長から自決勧告が出たと言われていますが、これは違法で強制力はありません。師団長については責任回避との批判があります。また辻参謀(?)が毎日のように自決を説得させたとの説もあります。小松原師団長はノモンハン停戦後の11月に井置家を訪問し、遺骨に手をあわせて男泣きに泣きました。そして翌年、胃がんで死去しました。自決との説もあります。
参考文献
有明書院「ノモンハン事件の真相と戦果」小田洋太郎・田端元共(著)
岩波新書「ノモンハン戦争」田中克彦(著)
産経新聞出版「ノモンハンの真実」古是三春(著)
参考サイト
Wikipedia「辻政信」
添付画像
塹壕から敵陣を狙う部隊 歴史街道2011.05より
« 歴史を捏造してでも民族意識を高める韓国 | トップページ | 停戦を強く望んでいたのはソ連だった ~ ノモンハン事件 »
「14.ノモンハン」カテゴリの記事
- 停戦を強く望んでいたのはソ連だった ~ ノモンハン事件(2012.06.12)
- 奮戦したフイ高地の井置支隊 ~ ノモンハン事件(2012.06.11)
- ソ連軍大反撃 ~ ノモンハン事件(2012.06.08)
- 人命軽視のソ連軍 ~ ノモンハン事件(2012.06.06)
- 空戦は圧勝だったのか ~ ノモンハン事件(2012.06.05)
この記事へのコメントは終了しました。
« 歴史を捏造してでも民族意識を高める韓国 | トップページ | 停戦を強く望んでいたのはソ連だった ~ ノモンハン事件 »
コメント